【深層考察・入門編】

【深層考察】山岳会のすすめ ー 総会で見えた登山の新しい潮流

北村 智明

山岳会は衰退していない。東北の山岳会の総会が示したのは、従来の「百名山」という価値観から離れ、「技術の深化」と「多様なスタイル」を追求する、登山の新しい潮流だった。組織に属することが「自由」を拡張する理由を考察する。


【記事情報】
難易度:初級〜中級
対象:登山歴1年以上、山岳会への加入を検討している層
記事タイプ:統合考察
キーワード:山岳会、沢登り、山スキー、登山コミュニティ


50名を超える総会が示すもの

2025年12月7日、所属する山岳会の総会に出席した。東北を拠点とする会で、現在の在籍会員は50名を超える。20代から70代まで、年齢層は幅広くほぼ全ての会員が行動的だ。一般登山、フリークライミング、アルパインクライミング、沢登り、アイスクライミング、山スキー。扱う分野の多様さは、現代の山岳会としては珍しい部類に入るだろう。

総会の模様

私自身は現在、会の装備担当と年報編集の理事を務めている。年報の編集作業を通じて、会員たちの多彩な活動記録に触れる機会は多い。そして今回の総会で、ある興味深い発言があった。70代の会員が指摘したのは、「若手会員の誰一人として、百名山という言葉を口にしなかった」という事実だ。

「百名山」から離れる若手たち

百名山。日本の登山文化において、これほど影響力のある概念も少ない。深田久弥の名著『日本百名山』が発表されて以来、多くの登山者がこれを一つの目標としてきた。しかし今回の総会では、山スキーやアイスクライミングの話題は頻出したものの、百名山に言及する若手はいなかった。

これは単なる偶然ではないだろう。登山の価値観が、ピークハントから技術習得や自然との関わりへとシフトしている。実際、沢登りを始めたくて入会したという会員もいる。きっかけを聞くと「暑さ対策」という回答が返ってくることもある。近年の夏季の気温上昇は、登山のスタイルにも影響を及ぼしている。標高の高い稜線を歩くより、渓谷の涼しさの中で技術を磨く。そうした選択は、極めて合理的だ。

山スキーへの関心も高い。イニシャルコストは確かにかかる。スキー板、ビンディング、シール、ブーツ。一式揃えれば10万円を超える投資になる。それでも「始めたい」という声が多いのは、雪山登山の可能性を広げる魅力があるからだろう。登りと滑降、両方を楽しめる山スキーは、冬季登山の新しい選択肢として定着しつつある。

沢登り講習会に30名という異様な光景

当会の沢登り講習会には、30名近い参加者が集まる。沢登りという、ある意味でニッチなジャンルの講習に、これだけの人数が集まる光景は異様とも言える。参加者の多くは、初心者から中級者だ。ロープワーク、増水時の判断、泳ぎを伴う遡行。習得すべき技術は多岐にわたる。

沢登り講習会の一幕

講習会の運営は容易ではない。30名を安全に指導するには、経験豊富なリーダーが複数必要だ。装備の確認、ルートの選定、気象判断。事前準備にも相当な時間を要する。それでも講習会を継続できているのは、会の中に沢登りの経験者が厚く層をなしているからだ。

ここに山岳会の強みがある。個人では習得しづらい技術を、組織として伝承できる。先輩から後輩へ、知識と経験が受け継がれる。書籍やネット情報だけでは補えない実践的な知見が、フィールドで共有される。

減少する山岳会、増加する会員

山岳会の会員数は、全国的には減少傾向にあると言われる。高齢化、新規会員の不足、活動の停滞。そうした課題を抱える会は少なくない。しかし当会は、年々会員数が増えている。なぜか。

一つには、活動の多様性が挙げられる。一般登山だけでなく、クライミング、沢登り、山スキーと、会員の興味に応じた選択肢がある。「登山」という枠組みの中で、各人が自分のスタイルを追求できる。これは小規模な会では難しい。人数と経験の蓄積があってこそ可能になる。

もう一つの要因として、例会のオンライン化がある。毎月の例会をオンラインで開催することで、物理的な距離の制約が消えた。東北を拠点とする会だが、県外からの参加者も増えている。仕事の都合で県外に転居した元会員が、オンライン例会を機に再び活動に参加するケースもある。遠方に住んでいても、会の情報を共有し、議論に参加できる。この柔軟性が、新たな会員層を開拓している。

もう一つは、組織としての機能だ。会装備の管理体制、年報の発行、講習会の開催。こうした基盤があることで、会員は安心して活動に専念できる。私が担当する会装備には、ロープ、テント、無線機など多数の用具がある。個人で全てを揃えるには負担が大きい。会の装備を利用することで、初心者でも本格的な活動に参加できる。

年報の編集作業も重要だ。各会員の活動記録を集約し、冊子として残す。これは単なる記録ではない。後から読み返すことで、自分の成長を確認できる。他の会員の記録からは、新しい山域やルートの情報を得られる。組織の記憶として、年報は機能している。

山岳会に入るということ

山岳会への加入を躊躇する登山者は多い。理由はいくつかある。人間関係の煩わしさ、会費の負担、活動への拘束。確かに、これらは無視できない要素だ。

当会は昭和から続く組織で、会歌があり、会報が発行され、例会、講習会、総会と、組織としての体裁は整っている。人間関係が密になる場面も少なくない。こうした「重さ」を敬遠する気持ちは理解できる。個人で自由に登山を楽しみたいという考え方も、一つの選択だ。

登山道の無いルートを辿る

しかし得られるものも大きい。技術の習得、安全管理の知識、信頼できる仲間。そして何より、一人では踏み込めない領域への挑戦が可能になる。沢登りや山スキーは、その典型だろう。装備の扱い、ルートの判断、リスク管理。これらを独学で習得するのは困難だ。経験者の指導があれば、習得の速度は格段に上がる。

会費についても、冷静に考えてみる価値がある。年間5千円から2万円程度の会費で、会装備の利用、講習会への参加、山岳保険の団体加入などが可能になる。個人でこれらを賄おうとすれば、金額的にも手間的にも負担は大きい。

人間関係については、会の雰囲気による部分が大きい。当会の場合、20代から70代まで幅広い年齢層が在籍しているが、活動は個々の自主性に任されている。参加を強制されることはない。自分のペースで関わることができる。

多様性が組織を強くする

総会で感じたのは、会員の関心の多様性だった。稜線歩きを好む者、岩を登りたい者、沢を遡行したい者、雪山を滑りたい者。それぞれが異なる目標を持ちながら、同じ組織に所属している。

この多様性こそが、会を活性化させている。沢登りの技術は、岩場での動作に応用できる。山スキーの経験は、雪崩リスクの判断力を高める。各分野の知見が交差することで、結果的に会員全体の技術レベルが底上げされる。

ゲレンデスキーの様には簡単ではない。

「百名山」という単一の目標ではなく、多様な登山スタイルを許容する懐の深さ。この姿勢が、若手会員を引きつけている理由だろう。登山の楽しみ方は一つではない。ピークハントも良いし、技術の探求も良い。自然の中で過ごす時間そのものを楽しむのも良い。

組織に属することの意味

登山は本来、自由な活動だ。誰に制約されることもなく、自分の判断で山に入る。その自由こそが、登山の魅力の一つだろう。だからこそ、組織に属することへの抵抗感がある。

しかし自由と孤立は異なる。一人で得られる経験には限界がある。特に技術的な登山においては、独学の危険性は高い。不適切なロープワーク、誤った判断、過信。これらは重大な事故につながる。

山岳会は、自由を制限する組織ではない。むしろ自由を拡張する装置だと考えられる。技術を学ぶことで、行ける山域が広がる。仲間がいることで、困難なルートに挑戦できる。組織の知見を活用することで、安全性が向上する。

往年の名アルパインルートの攀じる。

当会の会員が年々増えているのは、こうした価値が認識されているからだろう。70代の会員が指摘した「百名山」という言葉の不在は、登山観の変化を象徴している。何座登ったかではなく、どう登ったか。何を学んだか。誰と登ったか。そうした質的な側面が、重視されるようになっている。

登山の未来を担う組織として

総会を終えて感じたのは、山岳会という組織形態の可能性だ。個人の登山者が増える一方で、組織への所属を選ぶ人々がいる。その選択は、単なる伝統の継承ではない。技術の習得、安全の確保、新しい挑戦。具体的な目的を持った選択だ。

沢登り講習会に30名が集まる光景は、確かに異様かもしれない。しかしそれは、学びたいという意欲の表れでもある。山スキーへの関心の高さは、冬山登山の可能性を広げようとする姿勢の表れだ。

氷爆をダブルアックスで。

「百名山」という言葉が若手から出なかったという事実は、登山文化の転換点を示している。ピークコレクションから技術の探求へ。消費的な登山から創造的な登山へ。こうした変化の中で、山岳会は新しい役割を担いつつある。

知識を伝え、技術を継承し、安全を支える。そして多様な登山スタイルを許容する。当会が成長を続けているのは、これらの機能を果たしているからだろう。山岳会への加入を検討している登山者には、一つの参考になるかもしれない。組織に属することの意味を、改めて考える価値はある。


【まとめ】

◆ 山岳会の可能性

  • 技術の習得と安全性の向上が可能
  • 会装備の利用で初期投資を抑えられる
  • 多様な活動分野から選択できる

◆ 変化する登山観

  • 百名山からスキルベースの登山へ
  • 気候変動に対応した活動(沢登り、山スキー)
  • 質を重視する傾向

◆ 組織に属する意義

  • 一人では困難な技術習得が可能
  • 信頼できる仲間との活動
  • 知見の共有と世代間の継承

◆ 参考情報

  • 年会費:一般的に0.5-2万円程度
  • 活動頻度:会により異なる(月1-4回程度)
  • 入会前の見学や体験参加が可能な会も多い

※この記事は、特定の山岳会への加入を推奨するものではありません。会の雰囲気や活動内容は組織により大きく異なります。加入を検討する際は、複数の会を見学し、自分に合った組織を選ぶことをお勧めします。


【追伸:組織には属さず、技術を学びたい方へ】

山岳会の魅力をお伝えしてきましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。

「組織の人間関係は避けたいが、安全に技術を習得したい」
「沢登りや岩稜帯に挑戦したいが、独学では不安がある」
「自分のペースで、信頼できるプロの指導を受けたい」

このようにお考えの方もいらっしゃるでしょう。

山岳会という選択肢もあれば、個人技術講習という選択肢もあります。私が提供する技術講習は、お客様の経験レベルと目標に合わせた、マンツーマンまたは少人数制の実践的な指導です。

プロの技術指導で、あなたの「次のステップ」を安全にサポート

  • 沢登り、岩稜帯、雪山登山の基礎から応用まで
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  • 一対一、または少人数での集中的な技術習得

経験豊富な登山者の方の「より高度な技術」も、初めて専門的な登山を目指す方の「確実な基礎固め」も、確かな指導力で全力でサポートいたします。

山岳会に入るべきか、個人で学ぶべきか。その判断も含めて、まずはお気軽にご相談ください。あなたの「習得したい技術」と「目指す山域」を、おしゃべりする感覚でお聞かせくださいね。

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ABOUT ME
北村智明
北村智明
登山ガイド
日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージ2。ガイド歴10年。東北マウンテンガイドネットワーク及び社会人山岳会に所属し、東北を拠点に全国の山域でガイド活動を展開。沢登り、アルパインクライミング、山岳スキー、アイスクライミング、フリークライミングと幅広い山行スタイルに対応。「稜線ディープダイブ」では、山行の記憶を物語として紡ぎ、技術と装備の選択を語る。
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