【山岳紀行】栗駒山 ー 神の絨毯を踏みしめて
十月中旬、紅葉の当たり年と聞いた栗駒山へ。ガイドとして21名のゲストと共に須川温泉から登り、いわかがみ平へと下る贅沢なワンウェイルートを辿った。「神の絨毯」と称される錦秋の山肌は、期待を裏切らぬ美しさで我々を迎えた。ガイドとして、また一人の登山者として綴る、秋の栗駒紀行。
第一部:須川温泉へ
宿泊先の一関を発ったのは朝だった。石破新首相の誕生から二週間が経ち、世間は衆院選の話題で持ちきりだったが、山は変わらぬ姿で我々を待っている。
添乗員のOさんと共に、21名のゲストを乗せたバスは登山口へと向かった。車窓から見える山々は、すでに秋の装いを纏い始めている。今年は紅葉の当たり年だという話を、何度も耳にしていた。期待と共に、ガイドとしての責任が胸に重くのしかかっていた。
栗駒山。標高1,626メートル、宮城・秋田・岩手の三県にまたがるこの山は、深田久弥が「百名山に入れるべきだったかもしれない」と後に述懐したほどの名峰である。花の百名山、日本二百名山にも名を連ねるこの山の紅葉は、「神の絨毯」と称されて久しい。
須川温泉の登山口に到着したのは午前九時過ぎだった。駐車場にはすでに多くの車が並び、登山者で賑わっている。ここ数年、昭和湖付近の火山ガスの影響で須川コースの一部が通行止めとなっていたが、迂回路の整備が進み、再び多くの登山者を迎えられるようになった。
全員の装備を確認する。ガイドとして、出発前のチェックに妥協はない。ストックの長さ、靴紐の締め具合、雨具の携行。一つ一つを丁寧に見て回る。天候は晴れだが、山の天気は変わりやすい。慎重を期すことが、何より大切だ。
「それでは、参りましょう」
午前九時二十四分、我々は須川温泉を出発した。

第二部:名残ヶ原から三途の川へ
登山道はよく整備されていた。序盤は緩やかな登りが続く。参加者の方々のペースを見極めながら、適度に休憩を挟む。初めて栗駒山に登るという女性が、「こんなに綺麗な紅葉は初めて見ます」と感嘆の声を上げた。
名残ヶ原に到着したのは午前九時四十八分。湿原の草紅葉は晩秋の陽光を吸い込み、燃えるような黄金色に輝いていた。風が渡るたび、カサカサという乾いた音が、冬の訪れを密やかに告げている、そこには木道が一直線に伸びている。振り返れば、須川温泉の建物が小さく見えた。ここで小休止を取り、水分補給を促す。標高が上がるにつれて気温は下がる。汗で濡れた衣服は体温を奪うため、こまめな体温調節が必要だ。

苔花台分岐を過ぎると、本格的な登りが始まる。足元は火山性の岩が多く、滑りやすい箇所もある。
「この先、足元に注意してください。特に濡れた岩は滑ります」
参加者の皆さんに声をかけながら、慎重に進む。ガイドとしての責任は、常に安全を最優先することである。
やがて、沢の音が聞こえてきた。三途の川である。名前こそ物騒だが、水量は少なく、飛び石伝いに渡ることができる。ただし、濡れた石は予想以上に滑る。
「一歩ずつ、確実に足を置いてください」
全員の渡渉を見守る。年配の男性が、やや不安そうな表情を見せたが、ストックを巧みに使って無事に渡り切った。その表情に安堵が浮かぶのを見て、私も胸を撫で下ろした。

渡渉地点から上を見上げれば、山肌一面が錦に染まっている。ナナカマド、ダケカンバ、ミネカエデ。赤、橙、黄が複雑に入り混じり、静かに山の装いが深まっていくのがわかった。
「今年は本当に当たり年ですね」
添乗員のOさんが呟いた。私も同感だった。これほどの紅葉は、そう何度も見られるものではない。
第三部:山頂、そして下山
午後一時三分、山頂に到着した。標高1,626メートルの頂は、登山者で賑わっていた。紅葉シーズンの週末とあって、多くの人々がこの山を訪れている。皆、同じように神の絨毯に魅せられてやってきたのだろう。ここで昼食休憩を取る。風は冷たいが、日差しは暖かい。参加者の方々は思い思いに腰を下ろし、持参した昼食を広げた。

「ガイドさん、あの山は何という山ですか?」
若い女性が指差す先には、鳥海山が悠然とした姿を見せていた。山座同定をしながら、周囲の山々について説明する。こうした時間が、ガイドとしての何よりの喜びだ。

山頂からの眺望は素晴らしかった。遠く岩手山、早池峰山、そして月山まで見渡せる。参加者の皆さんは、疲れを忘れたように景色に見入っている。
「来てよかった」
Kさんが小さく呟いた。その一言が、ガイド冥利に尽きる。
下山は中央コースを選んだ。いわかがみ平へと続くこのルートは、登りとは違う景色を楽しめる。ワンウェイルートならではの贅沢である。

あまりの美しさに、つい足元がおろそかになりそうになる。疲労の蓄積した脚には、この絶景はあまりに甘い誘惑であった。
「景色を見る時は、必ず立ち止まってください」。そう声をかけながらも、私自身もまた、その色彩の奔流に目を奪われずにはいられなかった。

下りでは、登り以上に足元への注意が求められる。特に疲労が濃くなる後半は、転倒のリスクが高まる時間帯である。
「下りこそ慎重に。疲れた時ほど、一歩一歩を確実に」
そう繰り返しながら、列の前後を行き来する。全員の表情と足取りを確かめ、必要に応じて短い休憩を挟んでいく。

中央・東栗駒コース合流地点に着いた時には、すでに午後二時を回っていた。ここから、いわかがみ平まではあとわずかである。最後の下りにいっそう注意を払い、午後二時四十九分、全員そろっていわかがみ平の駐車場に降り立った。
「ありがとうございました」
参加者の方々が、笑顔で声をかけてくれる。全員、無事に下山できた。ガイドとして、これ以上の喜びはない。
栗駒山の神の絨毯。その美しさを、21名のゲストと共有できた一日であった。山は、また来年も変わらぬ姿で我々を迎えてくれるだろう。
記録
- 日程: 2024年10月13日(日)
- 形態: ガイドツアー
- 参加者: 21名(+ガイド・添乗員2名、計23名)
- 山域: 栗駒山(宮城県・秋田県・岩手県)
- ルート: 須川温泉 → 名残ヶ原 → 苔花台分岐 → 三途の川 → 産沼分岐 → 栗駒山 → 中央・東栗駒コース合流地点 → いわかがみ平
- 行動時間: 5時間24分(休憩含む)
- 歩行距離: 8.3km
- 累積標高差: 登り532m / 下り534m
- スタート地点: 福島県 → 須川温泉登山口
- 宿泊形態: 日帰り
- 天候: 晴れ
- 紅葉状況: 見頃(当たり年)
- その他特記事項: 須川温泉側からの登山が復旧。三途の川で渡渉あり。多くの登山客で賑わう。下山後はハイルザーム栗駒にて入浴。
【追伸:次は、あなたの番です!】
栗駒山での秋の山旅の記録、最後まで読んでくださりありがとうございます!
記事の中でご紹介したように、栗駒山の紅葉は「神の絨毯」と称されるほどの美しさです。
「紅葉の名所に行きたいけど、混雑が不安」
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「ガイドの解説を聞きながら、自然をもっと深く知りたい」
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お客様一人ひとりの「わくわく」や「大丈夫かな?」という気持ちに寄り添って、最高の山歩きをデザインするのが、私の個人ガイドツアーです。
私も栗駒山で感じた、あの「神の絨毯の感動」と「安全な山行の喜び」を、あなたにも満喫していただけるよう、心を込めてご案内します!
まずは、おしゃべりする感覚で、お気軽にご連絡くださいね。
GPSデータご利用時の注意
本記事で公開しているGPXデータは、当日の山行記録に基づくものです。
ご利用にあたっては、次の点にご注意ください。
積雪量・雪質・天候・紅葉の進み具合などの状況は日々変化しており、同じルートでも条件は常に異なります。
ルート上の危険箇所や通過の難易度は、その時々の登山道状況や体調・装備により大きく変わります。
GPXデータはあくまで参考情報であり、通行の安全を保証するものではありません。
ご自身の技術・経験・体力、装備、当日の気象条件を十分に考慮し、無理のない計画と慎重な行動を心がけてください。
不安がある場合は、経験者と同行するか、公的機関の情報や山岳ガイドのサービスの利用を検討してください。

