【深層考察・入門編】

【深層考察】登山のトレーニング – 体力づくりの基本と実践

北村 智明

登山に必要な体力は、日常生活では培われにくい。膝への負担、長時間の行動、酸素の薄い環境。これらに対応する身体をどう作るか。運動習慣のない人でも無理なく始められる、段階的なトレーニング方法を解説する。


【記事情報】

  • 難易度: 初級
  • 対象: これから登山を始めたい人、登山歴1年未満
  • 記事タイプ: 技術解説
  • キーワード: 登山トレーニング、体力づくり、初心者向け

第1部: なぜ登山にトレーニングが必要か

「山に登るなら、山で鍛えればいい」という意見を耳にすることがある。確かに一理あるが、これは経験者の言葉だ。初心者がいきなり本番の山で体を鍛えようとすれば、怪我のリスクが高まる。

登山は想像以上に身体への負荷が大きい。標高差1,000mの日帰り登山では、平地で10km以上歩くのに相当する負担がかかる。特に下山時、膝には体重の3〜4倍の衝撃が加わる。日常生活でこれほどの負荷を経験することは、ほとんどない。

体力不足での登山は、楽しさを奪う。息が上がり、脚が動かず、景色を楽しむ余裕もない。同行者に迷惑をかけることへの不安も生まれる。何より、疲労による判断力の低下は、道迷いや転倒といった事故につながりかねない。

適切なトレーニングを積めば、これらのリスクは大幅に減る。3ヶ月の準備期間があれば、運動習慣のない人でも標高差800〜1,000m程度の山を安全に楽しめる体力が身につく。


第2部: 登山に必要な4つの体力要素

登山に求められる体力は、単純な筋力や持久力だけではない。以下の4要素が複合的に作用する。

心肺機能(有酸素能力)

長時間の登りで最も重要となる。標高が上がると酸素濃度が下がり、平地より心肺への負担が増す。3,000m級の山では、平地の7割程度の酸素量しかない。

心肺機能が不足すると、すぐに息が上がり、休憩の頻度が増える。結果として行動時間が延び、日没前に下山できないリスクも生じる。

脚力(筋力・筋持久力)

登りでは大腿四頭筋(太ももの前側)が、下りでは大腿四頭筋とハムストリングス(太ももの裏側)が主に使われる。特に下山時の衝撃吸収には、十分な筋力が必要だ。

脚力不足は、膝痛や転倒の原因となる。下山時に「膝が笑う」と表現される状態は、筋力の限界を示している。

体幹の安定性

不整地を歩く登山では、バランス能力が求められる。体幹が弱いと、ザックの重みで姿勢が崩れ、余計なエネルギーを消費する。

岩場や鎖場では、体幹の安定性が安全性に直結する。三点支持での移動時、体幹が保てないと危険だ。

全身持久力

6〜8時間の行動に耐える持久力が必要となる。これは単一の要素ではなく、心肺機能、筋持久力、エネルギー代謝の総合力だ。

日常生活で数時間連続して身体を動かすことは少ない。この「長時間動き続ける力」の不足が、初心者の大きな壁となる。


登山に必要な4つの体力要素 各要素の重要度(最大値100) 20 40 60 80 100 心肺機能 (有酸素能力) 95 脚力 (筋力・筋持久力) 90 体幹の安定性 70 全身持久力 85 心肺機能(有酸素能力) 長時間の登りで最も重要。標高が上がると 酸素濃度が下がり、平地より心肺への負担 が増す。息切れせずに歩き続ける力。 脚力(筋力・筋持久力) 登りでは大腿四頭筋、下りでは衝撃吸収に 必要。脚力不足は膝痛や転倒の原因となる。 長時間歩き続けられる筋持久力が重要。 体幹の安定性 不整地でのバランス能力。体幹が弱いと ザックの重みで姿勢が崩れ、余計なエネル ギーを消費。岩場では安全性に直結。 全身持久力 6-8時間の行動に耐える力。心肺機能、 筋持久力、エネルギー代謝の総合力。 長時間動き続ける力は日常では培われにくい。 トレーニングのポイント 4つの要素はそれぞれ独立しているわけではなく、相互に関連しています。例えば、 心肺機能を高める有酸素運動は全身持久力の向上にもつながります。バランスよく 鍛えることで、安全で快適な登山が実現します。

第3部: 日常でできるトレーニング

山に行かなくても、登山に必要な体力は培える。週3〜4回、30分〜1時間のトレーニングで、着実に効果が現れる。

有酸素運動(週3〜4回)

ウォーキング・ジョギング
最も手軽で効果的だ。まずは30分の早歩きから始める。会話ができる程度のペースで、少し息が上がる強度が理想的だ。

2週間続けたら、時間を40分、50分と延ばしていく。1ヶ月後には、軽いジョギングを混ぜてもいい。「きつい」と感じる手前の強度を保つことが重要だ。

階段トレーニング
登山に直結する効果がある。駅やビルの階段を使い、ゆっくりとしたペースで昇降を繰り返す。10〜15分が目安だ。

下りでは膝への衝撃が大きいため、無理は禁物だ。痛みを感じたら、昇りのみに切り替える。

TOM
TOM

エスカレーターやエレベーターを階段に変えてみよう。

自転車・水泳
膝への負担が少なく、心肺機能を高められる。膝に不安がある場合は、これらを中心にするといい。

筋力トレーニング(週2〜3回)

スクワット


登山で最も使う筋肉を鍛える。足を肩幅に開き、膝がつま先より前に出ないよう、腰を落とす。10〜15回を3セット。

最初は浅めでいい。フォームが崩れるようなら、回数を減らす。慣れてきたら、ゆっくりとした動作で負荷を高める。

ランジ


片足ずつ前に踏み出し、膝を曲げる。左右各10回を2〜3セット。下山時の衝撃吸収力が養われる。

カーフレイズ


つま先立ちになり、かかとを上げ下げする。ふくらはぎが鍛えられ、足首の安定性も向上する。20回を3セット。

プランク


体幹トレーニングの基本だ。肘をついた腕立て伏せの姿勢で、30秒〜1分キープする。背中が反らないよう注意する。

ストレッチ(毎日)

柔軟性は怪我の予防につながる。特に股関節、膝、足首の可動域を維持することが重要だ。

入浴後など、身体が温まった状態で行うと効果的だ。各部位20〜30秒、痛みを感じない範囲で伸ばす。


第4部: 低山での実践トレーニング

日常トレーニングで基礎体力がついたら、実際の山で実践的な訓練を行う。これは装備の確認や、ペース配分を学ぶ機会でもある。

低山トレーニングの選び方

初回: 標高差300〜500m、往復2〜3時間
まずは短い山行で、自分の体力と装備を確認する。登山口から山頂まで明瞭な道があり、エスケープルートが複数ある山が望ましい。

都市近郊の人気の山であれば、登山者も多く、万が一の際も安心だ。

2回目以降: 標高差500〜800m、往復4〜5時間
徐々に距離と標高差を増やしていく。この段階で、水分補給や行動食の取り方、ペース配分の感覚をつかむ。

ステップアップ: 標高差800〜1,000m、往復5〜7時間
日帰り登山の標準的なレベルだ。ここまで来れば、多くの山に対応できる体力が身についている。

TOM
TOM

下山後にご褒美とかあっても良い

実践トレーニングのポイント

ペース配分
登り始めは特にゆっくりと。「物足りない」と感じるくらいが適切だ。最初の30分で飛ばしすぎると、後半で急激に疲れる。

息が上がらない程度のペースを保ち、一定のリズムで歩く。「ゆっくり・長く」が登山の基本だ。

休憩の取り方


50分歩いて10分休む、というパターンが一般的だ。ただし初心者は、30〜40分ごとに5〜10分の休憩でもいい。

休憩では水分と行動食を必ず取る。疲れを感じる前に補給することが、バテを防ぐコツだ。

下山時の注意
下りでは膝への負担が大きい。歩幅を小さくし、膝を深く曲げすぎないようにする。

疲労が蓄積する下山後半は、転倒のリスクが高まる。焦らず、一歩一歩確実に足を運ぶ。


第5部: トレーニング計画の立て方

効果的なトレーニングには、計画性が必要だ。目標を設定し、段階的に強度を上げていく。

3ヶ月プランの例

1ヶ月目: 基礎体力づくり

  • 有酸素運動(ウォーキング30分)を週3〜4回
  • 筋トレ(スクワット、プランク)を週2回
  • 週末に1回、低山トレーニング(標高差300〜500m)

2ヶ月目: 強度アップ

  • 有酸素運動(ウォーキング40〜50分、軽いジョギング)を週4回
  • 筋トレ(負荷を増やす)を週2〜3回
  • 週末に1回、低山トレーニング(標高差500〜700m)

3ヶ月目: 実践的トレーニング

  • 有酸素運動(50〜60分)を週3〜4回
  • 筋トレ(継続)を週2回
  • 2週に1回、低山トレーニング(標高差700〜1,000m)
  • 月末に目標の山へ
3ヶ月トレーニング計画の進捗 週ごとのトレーニング時間の推移(分) トレーニング時間(分) 0 100 200 300 400 500 1週 2週 3週 4週 5週 6週 7週 8週 9週 10週 11週 12週 有酸素運動(ウォーキング・ジョギング) 筋トレ(スクワット・プランクなど) 低山実践(標高差300-1,000m) ■ 1ヶ月目(1-4週) 基礎体力づくり。有酸素運動30分から 開始し徐々に延長。標高差300-500mの 低山で実践。 ■ 2ヶ月目(5-8週) 強度アップ。有酸素運動40-50分、筋トレ 負荷増加。標高差500-700mに挑戦。 ■ 3ヶ月目(9-12週) 実践トレーニング中心。標高差700-1,000m に対応。最終週(12週目)に目標の山へ。

よくある失敗と対策

焦りすぎ
最初から強度の高いトレーニングをすると、怪我や挫折につながる。「物足りない」くらいから始め、2週間ごとに負荷を上げるのが賢明だ。

不規則なトレーニング
週末だけ集中してやるより、短時間でも定期的に行う方が効果的だ。週3回30分の方が、週1回2時間より成果が出る。

休養不足
筋肉は休んでいる間に成長する。毎日激しいトレーニングをするより、適度な休養を挟む方が効率的だ。

栄養・睡眠の軽視
トレーニングと同じくらい、食事と睡眠が重要だ。タンパク質を意識的に摂り、7〜8時間の睡眠を確保する。

TOM
TOM

ヤマレコやヤマップに記録をつけるとモチベーションアップ!


まとめ

【トレーニングのポイント】

  • 心肺機能、脚力、体幹、持久力をバランスよく鍛える
  • 週3〜4回、30分〜1時間の日常トレーニング
  • 低山での実践トレーニングで経験を積む
  • 3ヶ月の計画的なトレーニングで、標高差1,000m程度の山に対応できる体力が身につく

【段階的なステップアップ】

  1. 基礎体力づくり(1ヶ月目)
  2. 強度アップ(2ヶ月目)
  3. 実践トレーニング(3ヶ月目)

【トレーニング継続のコツ】

  • 無理のない範囲から始める
  • 定期的に行う(週末だけより、短時間でも頻繁に)
  • 記録をつけてモチベーションを保つ
  • 低山トレーニングで実際の山を楽しむ

登山の体力づくりは、特別な才能や施設を必要としない。日常生活の中で、少しずつ積み重ねていけば、誰でも山を楽しめる身体が作れる。焦らず、自分のペースで、着実にステップアップしていくことが肝要だ。

TOM
TOM

筋力がつくと体重以上に痩せて見える健康的なダイエットになる


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体力がついたら、実際の山へ。以下の記事で、初心者におすすめの山と日帰り登山の実践方法を解説している。

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※この記事は、一般的な健康状態の方を対象としています。持病がある方、医師から運動制限を受けている方は、必ず専門家に相談してください。

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ABOUT ME
北村智明
北村智明
登山ガイド
日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージ2。ガイド歴10年。東北マウンテンガイドネットワーク及び社会人山岳会に所属し、東北を拠点に全国の山域でガイド活動を展開。沢登り、アルパインクライミング、山岳スキー、アイスクライミング、フリークライミングと幅広い山行スタイルに対応。「稜線ディープダイブ」では、山行の記憶を物語として紡ぎ、技術と装備の選択を語る。
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