【山岳紀行】

【山岳紀行】蛇ヶ岳 ー 新年の宴と冬の滑走

北村 智明

一月の船形連峰、蛇ヶ岳へ。前夜の新年会で升沢山荘は遅くまで賑わい、翌朝は二日酔いを抱えた者も少なくない状態での出発となった。それでも冬晴れの空の下、スキー組と歩き組あわせて十二名が雪原を目指した一日は、笑いと苦しみと爽快感に満ちていた。個人山行として綴る、一月の山スキー紀行。


第一部:宴の翌朝

前夜の升沢山荘は、新年会の熱気に包まれていた。

能登半島地震から一年が経っていた。私自身、あの地震の数日後に珠洲市へ医療支援に入った。被災地で見た光景が、今も脳裏に焼き付いている。そんな一年前のことを思いながら、今年は仲間たちと新年を祝う宴に臨んだ。

Oが用意したレモン鍋が湯気を上げ、Sの手によるクレームブリュレがバーナーの炎で焦げ目をつけられていく。薪ストーブの炎が揺れる小屋の中で、仲間たちの笑い声は夜遅くまで途切れることがなかった。酒が回り、語らいが続き、時計の針が深夜を指す頃になってようやく、我々は眠りについた。

翌朝、目覚めは決して爽快なものではなかった。

午前六時過ぎ、内水面水産試験場を出発する。頭が重く、身体が怠い。二日酔いは確実に我々の足取りを鈍らせていた。しかし、空を見上げれば雲ひとつない青空が広がっている。風もなく、気温も穏やかだ。これほどの好天に恵まれた以上、引き返す理由はない。

升沢コース登山口駐車場から船形山升沢コース登山口へと進む。スキー組六名、歩き組六名の計十二名という、普段より大所帯の山行である。準備を整え、午前七時過ぎ、いよいよ雪原へと踏み出した。

蛇ヶ岳は標高1,426メートル、船形連峰の一峰である。船形連峰は宮城・山形県境に連なる広大な山塊で、主峰の船形山(標高1,500m、日本二百名山)を筆頭に、1,200メートル級の峰々が連なる。冬期は豪雪地帯となり、山スキーヤーにとって東北屈指のフィールドとして知られている。


第二部:雪原への登高

旗坂平を過ぎ、樹林帯を登る。

スキーにシールを装着し、一歩ずつ高度を稼いでいく。二日酔いの身体には、この単調な登りが堪える。だが、止まるわけにはいかない。スキー組は黙々とラッセルを続け、歩き組もそれに続く。十二名という大人数ゆえか、トレースはすぐに踏み固められ、後続は幾分楽に進めていた。

「いい雪だな」

仲間の一人が言った。確かに、雪質は悪くない。シールのグリップは効いている。

樹林帯を抜けると、一群平の広大な雪原が目の前に開けた。午前九時過ぎである。青空と白い雪面のコントラストが眩しい。ここで小休止を取った。水を飲み、行動食を口にする。体調も少しずつ回復してきた。

一群平から三光の宮を経て、三光の宮分岐へ。三光の宮は、升沢コースの中間点に位置し、展望が開けた小休止に適した場所である。稜線は穏やかで、風はほとんどない。この時期にこれほど恵まれた天候は珍しい。

「いい天気だな」

仲間の一人が言った。私も頷いた。二日酔いの辛さは残っていたが、この青空の下で雪原を進む充実感が、それを上回っていた。

午前十一時前、三光の宮分岐に到着した。ここで二十分ほど休憩を取り、最後の登りに備える。


第三部:山頂と滑降の悦び

三光の宮分岐から蛇ヶ岳山頂までは、約五十分の登りである。

樹林帯を抜け、開けた斜面を登る。雪はやや重いが、スキーで滑るには問題ない状態だった。疲労が蓄積していたが、山頂はすぐそこだ。

正午過ぎ、蛇ヶ岳山頂に到着した。今年の干支の名を冠した山である。

標高1,426メートルの頂は、360度の展望に恵まれていた。船形山、泉ヶ岳、そして遠く蔵王連峰までが雪を纏って連なっている。青空の下、雪原が白い海のように広がっていた。十二名全員が山頂に集まり、記念撮影をする。笑顔が溢れた。前夜の宴と、今朝の辛さと、そしてこの達成感。すべてが一つの山行の中に詰まっている。

「さあ、滑ろう」

スキー組が先に滑降を開始した。斜面に身を任せ、重力に従ってターンを刻む。最高の新雪とは言えないが、滑る悦びは変わらない。樹林帯を抜け、一群平の広大な斜面を一気に滑り降りる。風が頬を撫で、スキーのエッジが雪を噛む音が心地よい。

歩き組も、それぞれのペースで下山していく。

途中、三光の宮付近でわずかな登り返しがあった。ここでシールを外したまま登ることにした。短い距離ではあるが、二日酔いの身体には堪える。スケーティングとキックを組み合わせ、なんとか登り切る。平坦に見える箇所でも、シールなしでの登高は想像以上に体力を消耗した。

「きついな」

仲間の一人が苦笑する。私も同感だった。だが、この程度の登り返しでシールを装着するのも煩わしい。我々は黙々と足を動かし、登り返しを越えた。

再び滑降を再開する。一群平へ向けて、広大な斜面を滑り降りる。ここからは緩やかな下りが続く。

午後一時過ぎ、旗坂平を通過し、午後一時四十分過ぎには船形山升沢コース登山口に戻った。全行動時間は約六時間。二日酔いの身体には長く感じられたが、それでも充実した一日であった。

升沢山荘に戻り、装備を片付ける。仲間たちの顔には、満足感が浮かんでいた。前夜の宴も、今日の山行も、すべてが船形の冬の思い出として刻まれた。山は変わらぬ姿で我々を迎え、そして見送ってくれた。


記録

  • 日程: 2025年1月12日(日) [日帰り]
  • メンバー: 12名(スキー6名、歩き6名)
  • 山域: 船形連峰(宮城県)
  • ルート: 内水面水産試験場 → 升沢コース登山口駐車場 → 船形山升沢コース登山口 → 旗坂平 → 一群平 → 三光の宮 → 三光の宮分岐 → 蛇ヶ岳 → 往路を下山
  • 行動時間: 約6時間10分
  • 宿泊形態: 前泊(升沢山荘)
  • 天候: 晴れ、風なし
  • 雪質: やや重いが滑走可能
  • スタート地点: 宮城県内 → 内水面水産試験場
  • その他特記事項: 好天に恵まれ、視界良好。前夜の新年会で二日酔いの参加者多数。シールなしでの登高は体力を要した。

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北村智明
北村智明
登山ガイド
日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージ2。ガイド歴10年。東北マウンテンガイドネットワーク及び社会人山岳会に所属し、東北を拠点に全国の山域でガイド活動を展開。沢登り、アルパインクライミング、山岳スキー、アイスクライミング、フリークライミングと幅広い山行スタイルに対応。「稜線ディープダイブ」では、山行の記憶を物語として紡ぎ、技術と装備の選択を語る。
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