【山岳紀行】筑波山 ー 万葉の双峰を訪ねて
三連休の最終日、日本各地を強風が覆い、多くの山が登攀を拒んだ。福島から関東平野を南下し、筑波山を目指した。標高877メートルの双耳峰は、冬の陽光を浴びて静かに聳えている。西の男体山、東の女体山。古来より信仰を集めてきた山域で、現代の登山者で賑わう稜線を辿る、一月の山行記録。
第一部:関東平野より双耳峰へ
福島から磐越道、東北道を経由し、常磐道を南へ。週末の強風は各地の山を閉ざしていた。予定していた山行は次々と見送りを余儀なくされ、三連休最終日の朝、同行のKから筑波山への提案があった。風の影響が比較的少なく、標高も控えめなこの山なら、安全に登れるだろうという判断である。
つくば市に入る。関東平野の真ん中に突如として現れる双耳峰は、遠くからでもよく目立つ。福島の雪深い山々とは対照的な、乾いた冬の光がそこにはあった。
筑波山。標高877メートル。決して高い山ではないが、平野に孤立して聳える姿には独特の存在感がある。西峰の男体山871メートルと東峰の女体山877メートル、二つの頂を持つこの山は、古くから信仰の対象とされてきた。万葉集にも詠まれ、常陸国の名山として知られる。深田久弥が日本百名山に選んだ山でもある。
筑波山梅林の民間駐車場に車を停めた。午前9時58分。この時期、梅はまだ固い蕾である。駐車場から筑波山神社へと向かう道には、すでに多くの登山者の姿があった。三連休最終日とはいえ、平日。それでもこれほど人が多いのかと、少し驚いた。筑波山の人気の高さを物語っている。

筑波山神社の鳥居をくぐる。拝殿まで続く参道は整備され、石段が続く。境内にはガマの油売りの口上が響いていた。「さあさあ、お立ち会い」。江戸時代から続く伝統芸能である。多くの参拝者が足を止め、その巧みな話術に聞き入っている。山岳信仰の歴史を感じさせる厳かな雰囲気の中に、こうした庶民文化が根付いていることが興味深かった。

白雲橋登山口から入山する。登山道は乾燥し、積雪も凍結もない。一月中旬としては歩きやすい状態だった。登山道に入ると、空気がひんやりとした。風は冷たいが、陽光が樹林の間から差し込み、心地よい。樹林帯を登る。常緑広葉樹と落葉樹が混じり合った森である。登山道はよく整備されており、迷うことはない。ただ、岩や木の根が張り出した箇所も多く、足元への注意は必要だ。
第二部:巨石の道を辿る
白雲橋コースは、筑波山神社側から女体山を目指すルートである。ケーブルカーの宮脇駅を起点とする御幸ヶ原コースと比べ、より変化に富んだ登山道だという。迎場分岐を過ぎ、高度を上げていく。

午前11時46分、白蛇弁天に到着した。小さな社が岩の間に建っている。古くからの信仰の場であることが窺える。ここから先は、巨石が目立つようになる。花崗岩の巨大な岩塊が、あちこちに点在している。筑波山の地質的特徴である。関東平野を形成する地層の下に埋もれていた深成岩が、隆起と浸食によって姿を現したものだという。6000万年前に形成されたマグマが、長い年月をかけて地表に現れた証である。

BENKEI HUTと呼ばれる休憩所を過ぎる。現代的な山小屋風の建物だった。さらに進むと、弁慶七戻りと呼ばれる場所に出た。巨大な岩が登山道の上に覆い被さるように迫り出している。「弁慶も恐れをなした」という伝承も、この威圧感を前にすれば得心がいく。岩の下をくぐり抜けるようにして進む。
登山者は絶えることがなかった。休日の混雑は想像していたが、これほどとは思わなかった。すれ違う人、追い越していく人、皆それぞれのペースで山を楽しんでいる。家族連れ、若いグループ、単独行の中高年。多様な登山者の姿が、この山の懐の深さを物語っている。

午後12時22分、女体山の山頂に到着した。標高877メートル。筑波山の最高峰である。山頂は岩場となっており、足場はやや不安定だ。慎重に歩を進める。
第三部:冬晴れの頂と下山路

女体山の山頂からの展望は素晴らしかった。冬の晴天に恵まれ、遠く富士山が白い姿を見せている。関東平野が一望でき、霞ヶ浦の水面も光っていた。しかし、風は強かった。山頂に立つと、冷たい風が容赦なく吹き付ける。その瞬間、私の帽子が風に飛ばされた。咄嗟に手を伸ばしたが間に合わず、帽子は空中を舞い、岩場を転がり落ちていく。幸い、近くにいた登山者の方が拾ってくださった。感謝の言葉を伝え、改めて風の強さを実感した。
御幸ヶ原へ向かう。山頂を後にし、せきれい茶屋を経由して下る。紫峰杉と呼ばれる巨木を過ぎると、すぐに御幸ヶ原に出た。

御幸ヶ原は広い平坦地で、ケーブルカーの筑波山頂駅やロープウェイの乗り場、そして複数の茶屋が並んでいる。観光客と登山者が入り混じる喧騒に、一瞬足が止まる。山頂直下の急峻な岩場と、この賑わいのギャップに、改めて気を引き締め直した。

その一角に、新しいカフェが建っていることに気づいた。おしゃれな外観である。店内を覗くと、現代的なデザインの手ぬぐいやTシャツが飾られていた。筑波山をモチーフにした洗練されたグッズである。伝統的な山岳信仰の場に、こうした新しい文化が根付いていることが興味深かった。

男体山へ向かう。午後1時53分、男体山山頂に到着。標高871メートル。女体山よりわずかに低い。こちらも岩場の山頂で、筑波山神社本殿の奥宮が祀られている。
再び御幸ヶ原に戻り、ここで昼食とした。冷えた身体を休める。
下山は御幸ヶ原コースを選んだ。男女川の源流部を辿る道である。男女川解説板のある場所で小休止し、さらに下る。樹林帯の中の穏やかな道だった。午後3時50分、中ノ茶屋跡の四阿に到着。ここから宮脇駅は近い。

午後4時11分、筑波山神社に戻った。境内はまだ多くの参拝者で賑わっている。拝殿に手を合わせ、無事の下山に感謝した。参道の出店でクリーム味の大判焼きを買う。温かく、冷えた身体に染み入る甘さであった。神社入口のバス停を過ぎ、駐車場へと戻る。午後4時22分、駐車場に到着。行動時間6時間24分の山行であった。

筑波山は、関東平野に聳える名峰である。標高こそ低いが、古来より信仰を集め、多くの人々に親しまれてきた歴史がある。現代においても、その魅力は変わらない。むしろ、新しい文化が重なり合い、さらなる深みを増しているように感じた。冬晴れの一日、多くの登山者と共に山を歩く時間は、充実したものであった。
記録
- 日程: 2026年1月12日(月・祝)
- 形態: 一般登山
- メンバー: 2名
- 山域: 筑波山(茨城県)
- ルート: 筑波山梅林駐車場 → 筑波山神社 → 白雲橋コース → 女体山 → 御幸ヶ原 → 男体山 → 御幸ヶ原 → 御幸ヶ原コース → 筑波山神社 → 駐車場
- 行動時間: 6時間24分(休憩含む)
- 天候: 晴れ、強風
- スタート地点: 福島 → つくば市
- 特記事項: 積雪なし、凍結なし、登山道乾燥、混雑あり、駐車代300円
【GPSデータ利用上の注意】
本記事で公開しているGPSデータは、あくまで当日の記録です。以下の点にご注意ください。 – 天候、登山道の状態は日々変化します。当日と同じ条件とは限りません – 積雪・凍結の有無は時期により大きく異なります – 山頂付近は強風が吹くことがあります。防寒対策を – 休日・祝日は大変混雑します。時間に余裕を持った計画を – GPSデータはあくまで参考情報です。ご自身の技術・経験・体力を考慮し、慎重に計画を立ててください – 不安がある場合は、経験者と同行するか、ガイドツアーのご利用をお勧めします – 登山は自己責任の世界です。安全第一で楽しんでください

